読書感想『ジェノサイド』

1.書籍情報

ジャンル:サスペンス小説 SF小説
鑑賞履歴:2021/9/24(文庫)
公式サイト:角川書店公式
wikipedia:wiki
作者:高野和明
制作年:2011年
制作国:日本
ページ数:590
発行元:角川書店
受賞歴:このミステリーがすごい!2012年版1位 週刊文春ミステリーベスト10 1位 第2回山田風太郎賞受賞 第65回日本推理作家協会賞受賞

2.評価(個人)

個人的な好き度合い (1/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

それぞれの思いの下、命を懸けて戦う人々の物語が一つに繋がる群像劇。

それにしても、軍事、薬学、戦史、進化論。。。
あらゆる分野に精通する知識とその理解の深さに、一体どんなオタクがこの本を書いたんだろう?と思いながら読み進め、読後の参考文献の量に絶句しました。

壮大なエンターテイメントとしてのストーリーを軸に、専門性の高い知識や技術を吸収し、解体して散りばめ、ストーリーを精緻で隙のない完成度まで練り上げてしまったような。
これだけの精度の本を書き上げるというのはどれだけの熱量を必要とするんでしょう?

死が身近に感じられるストーリーの中で、一つ一つの命が丁寧に扱われている事も特徴的です。
ジェノサイド(=集団殺害)を引き起こす人間、巻き込まれる人間、殺される人間、そしてそれを阻止しようとする人間。
全ての人にドラマがあり、絶望があり、矛盾があり、希望がある。
本当に丁寧な本です。

ブログランキングに参加しておりますので、よろしければバナークリックで応援をお願いします。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

高野和明先生の本は、『13階段』『グレイヴディッガー』『K・Nの悲劇』『6時間後に君は死ぬ』と読んでいて、アクションやエンターテイメントとして楽しめるような作家さん。
オカルトホラーのイメージも強く、良質でサラサラと楽しめる小説を提供してくれる作家さんという印象でした。
『ジェノサイド』に関してもその延長線上にある作品ではあるのですが、ただスケール感が圧倒的に広がって、何よりフィクションと判っていても、その大元になっている知識の膨大さと精緻さがとんでもないレベルで、ストーリー以前にそこに感動すら覚えながら読んでいました。

例えば、
大統領の心理や決断にその人間性と心理学的な考察からの意志判断の理由が描かれ、
残酷無比なアフリカの内戦兵士達の振る舞いにかつての戦争で、旧日本兵も含めた戦争下の暴虐が描かれ、
アメリカ政府、FBI、日本警察の関連性とその追跡能力、
イスラム地区での米軍の実態と民間傭兵会社の存在意義や目的、
現在のテクノロジーを利用した戦闘形式とその作戦、実施方法、
そして薬学的な見地からの生物、化学に及ぶ創薬の研究、試験の流れ、等。
オカルト部分としても人間の脳が極端に進化した新人類の子供も描かれますが、これも生物の進化になぞらえて描かれるだけに、読んでいる内にあながちフィクションという気もしなくなってくる不思議。

とにかくストーリー以前に、軍事、薬学、戦史、進化論、コンピュータ・・・とやたら出てくる専門知識にいったいどれほどのオタクがこの本を書いているんだろう?と、心底、感心しながら。
読み終えてその参考文献の多さにもかなり絶句しました。
多くの小説が作家の頭の中で経験と想像の中から生まれてくるのに対して、この小説は出来上がったストーリーの裏付けとして、大量の知識を理解して、吸収し、ストーリーに当て嵌めて、整合性を取っていくというような、その完成するまでの膨大な時間と熱量を思うと、ひたすら平伏したくなる気分です。
なんだか自分にとってのこの本は、現代のあらゆる技術、学問、パワーバランス、紛争等をかみ砕いて、起こり得る未来を予測した論文を読んでいるような。
と、これ自体がストーリーの前提となるハインズマンレポートの話になるのも、また不思議な話で。

ストーリーとしては、世界中に跨った群像劇です。
日本、コンゴ、アメリカ、細かくいえば、ポルトガル、イラク、南アフリカ等も。
バラバラに思える話が関連性を持っていて、徐々に結びついてラストに突き進んでいく話。
細かいストーリーを解説するには話が大きすぎるのですが、描かれるストーリーは、
人間対人知を超えた知能の新人類というエンターテイメントとしての面白さ、
赤子に近い新人類に人間としての感情を与え、愛情を育む人間のあり方を問うドラマ、
未解決の難病を治す薬を期限内に作り上げる使命感の中で生まれる友情、
現在の国家を動かす人間達の浅ましさを描き、その権力に執着する人々への糾弾、
内戦で欲望のままに殺戮を繰り返す人間達の闇深さと残虐さ。

そして、そもそも新人類は人なのか?神なのか?
欲望のままに殺戮を繰り返したり、権力と富を得てその既得権益を守る為に人々を先導する人間達に生き残る価値はあるのか?
そんな疑問をストレートに投げかけるストーリーです。
ただ、そんな下等な現生人類でも、大切な人を守り、助ける為に命を懸けて戦うという事。
どれだけ多くのテーマを並べても、この小説の一番のテーマは、人が人の命を守る為に投げ出す行動は何よりも尊いという事だと思います。
そして、そう行動できる人間である為には、たくさんの愛情を受け、多くの仲間と助け合い生きていく必要があるという事。
それは、イエーガーとその家族の関係であったり、古賀 研人と李 正勲の友情、アキリとエシモの親子や彼らを守り続けるピアースの関係、そしてルーベンスやハインズマン、ガードナー等の権力に近い人間と関わる人々の間の道徳観から生まれる一体感であったり。
多くの人間の醜さと対比するように描かれる人間としての美しさ、誇らしさがストレートに描かれている事もこの小説の素晴らしい点です。

4.評価

世間の評価は以下のような感じです。

amazon :4.1

面白いという方の意見:

・圧倒的なスケール感にただただ押し切られて読み切った。
・もっとも大切に描かれていたのは子供の命、人の命。そして親子の絆だった。
・ラストに至るまでのスリリングな展開に引き込まれた。
・架空とは思えない程リアルに細かい設定も素晴らしかった。
・並行して進む話がどれも読み応えがあった。
・人間の異常な環境で生き残る為に生じてくる残虐性を考えさせられた。
・フィクションとノンフィクションの境目がつかめない。
・人類のゲスさを敢えて問いかける本。
・報道されない事実が今も本当にあるのか?。単純に興味がわいた。

面白くないという方の意見:

・ストーリーには真新しさがなく、過去の名作の焼き回し。
・専門用語や知識のひけらかしに近い記述が多い。
・ミックや旧日本軍を利用した日本蔑視の表現や、全体を通して偏見と感じる表現が多い。
・旧日本軍が朝鮮人虐殺を行ったとの嘘の記述は見過ごせない。

世間の評価を見ての印象:

書評ってここまでこき下ろすんだな。っていうくらい、嫌いな方はボロクソの文章を書いて鬱になりそうな気分に。。。

物語の中で反日的な表現もあって、おやっ?と思いもしたんですが、そこに対しての言及はかなり強い反対意見も多かったですね。
面白いという方は、エンターテイメントとしてかなり楽しんだ感想が多く、基本的にはそういう楽しみ方が出来る本ですよね。

amazonで書籍を購入する。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・社会問題に切り込んだ小説を読みたい方。
・人の狂気が感じられる小説を読みたい方。
・緊迫感のある怖さを描いた小説が好きな方。
・常識や道徳観が崩れていく小説が好きな方。
・困難な状況に仲間と立ち向かう一体感を感じるのが好きな方。
・専門的な知識や考察が優れた小説。
・読みすくスラスラと楽しめる小説。
・緊迫感のあるアクションを感じられる小説。
・胸糞キャラを観るのが好きな方。
・メンタルの強い男性が好きな方。
・天才的な頭脳を持った人間を扱った小説。
・戦争小説や戦時中の話が好きな方。
・銃撃戦が楽しめる小説。
・複数の主人公の視点で進む群像劇の小説が好きな方。

5.小説関連記事 紹介

ブログランキングに参加しておりますので、よろしければバナークリックで応援をお願いします。

ブログランキングに参加しておりますので、よろしければバナークリックで応援をお願いします。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

コメント

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします。
タイトルとURLをコピーしました