読書感想『舟を編む』

1.書籍情報

ジャンル:ドラマ
鑑賞履歴:2021/7/12(文庫)
公式サイト:光文社特設
wikipedia:wiki
作者:三浦しをん
制作年:2009年~2011年(雑誌『CLASSY.』に掲載)
制作国:日本
ページ数:324(文庫)
発行元:光文社
受賞歴:2012年度本屋大賞

2.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

ひたすら読むのが心地よく、次のページを捲る手を止めることなく読んでいました。
丁寧に描かれたキャラクターが悩み、乗り越え、真っ直ぐに物語が進んでいく。
発見と成長を繰り返しながら冒険をするように進んでいく物語は、言葉の海を渡る舟を編む(編集)という意味のタイトルにもぴったりだと思いました。

ここの所、ミステリーやサスペンスといった小説や映画ばかりに触れていたこともあって、徐々に真実が明かされ最後に縺れた糸が一本に繋がる。といった難解で気の抜けないストーリーばかりに慣れてしまっていました。
それもあって、スラスラと言葉が心地よく入ってくるこの本の世界には殊更、新鮮さと幸せ感を感じながら読んでいました。
前半の方では、辞書を作るという前提はあるものの、馬締と香具矢の恋物語がメインとなりますが、この二人のキャラクターが物凄く魅力的で、尚且つ、絶対に引っ付かないと思われる二人が違和感なく引っ付いてしまう展開が、モヤモヤもありつつおとぎ話のようでやっぱり心地よかったです。
香具矢は典型的なキラキラキャラ。
登場シーンからしてキラキラして、屈託なく奔放で美人で人柄もよく、おまけに板前という夢に向かって邁進中で、ただちょっとだけ過去の恋愛に引っ張られてもいる悩ましさも持った、どんなストーリーに出てきても主人公になって、読者を一気に好きにさせてしまう様な女性。
それに対して、馬締はコミュニケーションが苦手で、極端な読書好きで人とも話が合わない浮いた存在。
暗いわけではないし、優しい人だけれど、見た目にも無頓着で目立たない変り者。
そんな馬締が香具矢に恋をして知る劣等感、これが本当に男心に沁みる話です。
憧れから始まる恋愛は片一方に劣等感しか感じさせなくて、悩んで苦しんで、結果、唐突に玉砕のような形で相手にぶつかっていってしまう、10代の頃のような甘酸っぱさ。
酸っぱい思いばかりしてきた45歳からの金言として、そういう恋愛は失敗した方がいい。といつ言おうかと思っていたら、上手くいっちゃった!!
もう完全に読みながら馬締を応援していたとは言え、いざ引っ付いてみるとちょっと寂しさもありますが、馬締に関しては、多分、人生で一回きりの大恋愛でしょうから、まぁ、いいんですけど。
でもなぁ、馬締も応援していたとは言え、完全に香具矢ファンにもなっていただけにちょっと悔しさもあるんですよね。
これは読者に香具矢を好きにならせて、香具矢が寝取られる様を楽しめという高度なNTR話なのか?と、疑る程に悔しさのある展開でした。

ただ、そんな読者というか僕の心情を完全にリンクさせて語ってくれる西岡という存在もいまして、彼が二人を見ながら人生に、仕事にと、打ち込んでいく話もなかなか心地よい流れです。
特に愛人教授の撃退ぶりが胸をすく話で、一気に読者も馬締応援から西岡応援に切り替えた所で、今度は西岡の方も幸せになっていく。
これは本当にどこまでストーリーとして組み立てているんだろう?と、不思議に思う程、サラサラと流れる展開が心地いいです。
でも、名前の挙がっていない荒木と佐々木さんと松本先生等も、本当にキャラづくりが丁寧で、するすると人柄と背景が頭に浮かんで、彼ららしい言葉で物語が進んでいくのは、本当に気持ちのいい小説だと思います。

この辺りで丸く収まる物は全部収まって後半へ進みますが、12年後の妙に立派になった馬締に戸惑いつつ、たまに出てくる香具矢の落ち着きぶりにキラキラ感が無くなってしまいちょっとためらうものの、後半の見せ場も勿論素晴らしいです。
後半の頭は新しく配属された岸辺さんの仕事への悩みから始まり、目的の辞書作りもとん挫状態でバラバラしたところから開始しますが、徐々にバラバラの物が一つに纏まっていき、ついに合宿に突入の流れはやっぱり素晴らしいですね。
立派になったとは言え、あくまで仕事に対しての自信が増したという状態の馬締が、リーダーという強さまでは感じさせる段階にまで成長していく姿。
背中で周りを引っ張りつつ、あらゆる問題を並行で調整し、決断はしっかりと自分で決める。
おまけに周りへの感謝や配慮を身をもって示す。
メンバーや学生達を見事に掌握するリーダーぶりに再び馬締愛を読者に引き寄せつつ、辞書作り13年の達成感を喜ぶラストまで。
何度も繰り返している心地よさのまま、本当に最後まで突っ走ってしまいました。
本当に面白く心地よい物語でした。

一応、原作を読んだので、この後、未見の『舟を編む』の映画を観ます。
松田龍平が主人公、という事だけ知っていましたが、キャスティングを見て、香具矢が宮崎あおい!、西岡がオダギリジョー!!、岸辺さんが黒木華!!!
超が付くほど、好きな人ばっかり。
これは役者的にかなり楽しみです。
監督の石井裕也さんは初めての監督さん、作品自体の評判が良いのであまり心配はしていませんが、どんな映画に仕上がっているか本当に楽しみです。

3.評価

個人的な好き度合い:★★ (3/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

心地良くラストまで読める物語でした。
出てくるキャラクターが魅力的で、ヒロインの香具矢の恋に寝取られ感すら感じてしまう程にキャラを愛してしまう話でした。

世間の評価は以下のような感じです。

amazon4.4

面白いという方の意見:

・温かく愛おしい気持ちにさせてくれる小説。
・登場人物が魅力的で、心や言葉にも感情移入しやすい。
・読みやすくまっすぐに進んでいく話が心地よい。
・辞書作りの長い地道な作業とそこに必要な情熱がよく判る。
・辞書作りに関わる多くの人とその思いが伝わる。
・ネットではないアナログな世界で辞書を作るという設定が新鮮。

面白くないという方の意見:

・恋愛や死を取り扱いながらストーリーを進めているだけでつまらない。
・予測を裏切る展開が何一つない。
・ライトノベルのようなキャラクター、設定、文章。
・笑いのセンスが自分とは合わないので無理。

世間の評価を見ての印象:

好印象の方が多く、読了後の心地良さ、キャラクターへの愛着、読みやすいストーリーというのを挙げている方が多かったので、僕としても同じ思いを共有出来て嬉しかったです。
特にキャラクターに関しては、人それぞれ、思い入れを感じる人が違うこともあり、楽しみながら読んでいました。

悪印象は好印象の部分を良しとしない意見で、纏めて悪い印象だけ読むと、精神的にちょっとざわつく感じでしたので、早々に切り上げました。

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4.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの小説かも知れません。

・読後に幸せな気持ちになる小説が好きな方。
・とにかく笑いたい方。
・読んで仕事への意欲が高まる小説。
・甘酸っぱい恋愛の話を読みたい方。
・登場人物の魅力に引き込まれる小説。
・読みやすくスラスラと楽しめる小説。
・困難な状況に仲間と立ち向かう一体感を感じるのが好きな方。

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