映画感想『舟を編む』

1.映画情報

作品名:舟を編む
ジャンル:ドラマ
鑑賞履歴:2021/7/13(U-Next)
公式サイト:松竹DVD公式
     :公式twitter
wikipedia:wiki
監督:石井裕也
制作年:2013年
制作国:日本
上映時間:133分
配給:松竹 アスミック・エース
メインキャスト:松田龍平 宮﨑あおい オダギリジョー 黒木華 渡辺美佐子 池脇千鶴 鶴見辰吾 伊佐山ひろ子 八千草薫 小林薫 加藤剛
スタッフ:脚本(渡辺謙作)
原作:『舟を編む』 三浦しをん

受賞歴:第37回日本アカデミー賞 最優秀作品賞 最優秀監督賞(石井裕也) 最優秀主演男優賞(松田龍平) 最優秀脚本賞(渡辺謙作) 最優秀録音賞(加藤大和) 最優秀編集賞(普嶋信一)
予告動画:

映画『舟を編む』予告編

2.あらすじ

公式サイトをご覧ください。

3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

訳あって2部仕立てです。

【1部:1回目の視聴】
前日に原作を読み返し、あまりの心地良さにかなりウキウキの状態での初視聴。
なんか違うんだよな。。。と小首を傾げながら最後まで観てしまいました。
十分面白かったですし、笑いましたし、原作から捻った所もなるほどと思いながら否定はしないのですが、なんかこう、原作とそもそもの空気感が違うんだよな。と。
読む人によって違うのかもしれませんが、原作は軽やかで日差しも柔らかというか、穏やかな日常の中で進んでいくストーリーが心地よかったんですが、映画版はなんとなく夜ばっかりの印象。
確かに、香具矢という名前は夜を連想させますし、言葉の世界の海は夜っぽいし、原作も言われてみれば夜のシーンは多いように思いますが、なんというか映像が暗くおまけに湿度が高い。

キャラクターも暗いんだよな。
いや、馬締にしても香具矢にしても、本来はこの映画のような暗いキャラクターだったのを、僕が読み違えて明るく感じていただけなのかもしれないのですが。
こんなだっけ?と、ずっと思いながら。
オダギリジョー扮する西岡はやり過ぎ感が出てるし、部署移動した後の首相の息子みたいな風貌はなんなんだ?、それにこの人面白いけどもう少し繊細な人なんだけどな。と思いつつ、黒木華扮する岸辺ももう少し心境の変化がはっきりと心地よいのだけれど。
やっぱり尺かな?と思いながら。
そう言えば原作は、シーン毎に主観となる人が変わる群像劇のような作りだったので、サラサラと読んでいるとは言え、これを映画にすると結構なボリュームになるのかな?と思いながら。
ファッションも90年代ってこんなにダサかったかな?と、わざとなのかな?この長すぎるジャケット??、これが一般的だったのかあれですが、酷過ぎる。

という感じで、ここまで書いてこの先の感想をどう書いたものか悩んでしまい手が止まってしまいました。

【2部:2回目の視聴】
いや、1回目の印象があまりに悪すぎて、でも世間でこんなに評判のいい作品をここまでダメダメ言うのも自分でもなんだか虚しくて、とりあえずもう一回観ました。
大量のアイロン掛けしながら。。。
やっぱり駄目だと思ったら消せばいいや。くらいの気持ちで観てみようと思いましたが、面白かったですね!
途中でアイロン掛け止めてしっかりディスプレイの前に噛り付いてました。

一応、原作を読んでいる立場から感じる事として、ストーリーで一番変更したと思った部分は、原作の前半は馬締と香具矢の恋の話が比重が高いのですがそこを少し落とした所。
映画ではとにかく世間知らずで人との交流が出来ない馬締が、香具矢と恋をしたり、西岡と心を通わせたり、荒木から思いを託されたり、辞書を作るという事に対して情熱を持ったり、と、これは原作も同じですがいろんな要素を盛り込みつつ。
ただ、恋物語の部分は、全体の成長の一つのエピソードというくらいサラッと描かれているように思いましたし、そもそも映画の流れで香具矢が馬締を好きになる理由なんて、僕には理解できなかったですし。。。
むしろ、香具矢との恋よりも西岡との心の交流の方がずっと比重が高いように感じました。
本当に、最初の頃の心の距離感が嘘のような蜜月ぶり。
馬締が「まじですか!」なんて答えて西岡に成長ぶりを褒められるシーンなんて、香具矢と結ばれるシーンよりも余程か泣けますよ。

というか、初見の印象として、オダギリジョー演じる西岡はキャラとして浮き過ぎで、寧ろ馬締より変人なんじゃないか?と思うぐらい際立っていて、演技としても自然さはなく、どちらかというとドラマのチョイ役に出てきた突っ込み芸人みたいな違和感でした。
それであまりの軽さに違和感しか感じず、これはミスキャストだろうと思っていたんですが、二回目はオダギリジョーにも見慣れてやっと役に嵌ってくれて、そうすると映画版の西岡もいい役どころなんですよ。
変り者の馬締を軽薄にいじりながら、感情的に文句を言ったり、けど仲良くなってからは弟のように可愛くてしょうがなくなってくる。
馬締も完全に懐いて西岡に見せる顔はやたら可愛い。
もう映画版はこの二人のBL的な恋物語ですよね。ほんと。
原作の方はNTR話だと思いましたが、映画はまじめちゃんと西岡にいにのBLです。
とは言え、香具矢とのエピソードは馬締が恋という感情を辞書として自らの言葉で説明する為には絶対に外せないエピソードでして、そしてこれは原作でも前半の締めに近い部分なので、そこが達成できればいい程度の扱いなのかな?と個人的にはそれで折り合いを付けました。

後半はにいにの出番は減りますが、原作で西岡が出るシーンは残しつつ、岸辺のシーンは大幅に削るという西岡編集が施され、笑いも継続しながら進んでいきます。
なんといっても後半の目玉は合宿シーン。
学生達の演技ぶりに、なんてダイコンなんだ!と思いつつ、それでも熱いシーンはやっぱり盛り上がります。
突如、登場する鶴見辰吾演じる村越局長(多分、局長時代から12年経っているので役員くらい?)の「3月発売は約束ですよ」という呼びかけに、学生達の無言の頷きによる後押しを受け「勿論です。」と答える馬締の男ぶり。堪んないです。
経営的な立場から下への無理を強いる管理側と、それに絶対に応えるという社員の心意気。
局長だってこんな火の吹いている現場に顔出すのって絶対嫌なはずなんですよ。
だって、この人が期限延ばすって一言言ってくれれば全員が楽になるのに、それをさせない張本人として顔を出すわけですから。
軽薄な部下であれば、ここで噛みついて「お前のせいだ!」って言ってふて腐れる所を、馬締はきちんと受け止める。だから素晴らしい。
しかしこんなに労働力を湯水のように使って、絶対予算オーバーしてるだろ?この管理はまずいぞ。と、個人的にはヒヤヒヤするんですが、局長の「期待しています。」という返しは、「だったらいくらでも泥は被ってやる!」と、そう聞こえるんですよね。
村越局長、絶対この人、滅茶苦茶いい人です。
因みにこの村越局長の登場シーンも原作にはないオリジナルですが、個人的にグッと映画に引き込まれたシーンでした。
石井監督も映画作る側の人、納期を制作者に迫られてこんな感じのやり取りをしたことがあるのかな?と勘ぐってみたり。

そしてラスト、再びにいに登場で馬締とイチャイチャしつつ、松本先生の泣ける手紙あり、天国で用例採取というお洒落な締めもあり、ラストシーンは香具矢の「やっぱりみっちゃんって面白い。」という言葉で締める。
でも、個人的には「やっぱり香具矢の気持ちは判らない。」と、ちょっと思ってしまったラストでした。

改めて、今回のように原作読んで映画観て不満で、もう一回映画観ると面白いっていう流れがあると、原作ありきの映画ってどのタイミングで映画を観ればいいか?悩んでしまいます。
前日に読み終えてみっちり頭の中が原作の心地良さで満たされている状態で映画を観ると、違う!違う!!と、そればっかり目に付いてしまうし。
特にこの映画に関しては、馬締、西岡、岸辺、そして一部は荒木のモノローグ的に語られたストーリーを全体の視点一個にしているので、どうしても心の声が足りなくなってしまいます。
更に、細かい設定や台詞の変更が多く、キャラクターですら原作と趣を変えているので、原作のイメージで入ると、なんで変えたんだ!と理不尽な怒りを感じる程。
だからこの映画に関しては、程よく原作の記憶が抜けて、なんとなく軽快で面白い話だった。位の記憶の状態で観た方が良かったんでしょうね。
僕も1回観て、ある程度原作の記憶を塗り替えたことでやっとこの映画の面白さに入れた気がしますし。

とは言え、2回観た今の段階では、ストーリー的に原作との変更が多いことに関してもかなり前向きに捉えています。
尺がある中で、削ぎ落す部分は落してシンプルにモノローグのないストーリー仕立てで最後まで綺麗に仕上げていると思いますし。
それに、映画として会話のテンポと面白さに軸をおいて、掛け合いで話を進めるにはよりインパクトのある言葉を原作から抜きつつ、作り手として言葉を加えつつ、そこに監督や脚本家としてのセンスを注ぎ込んだのかな?と思うと、これはなかなか当たりだと思いました。
掛け合いとして、漫才的な面白さでの馬締と西岡の関係は絶妙でしたし、前半はこの二人の掛け合いも多く、個人的にかなり嵌りました。
大体の所、西岡が馬締の恋文を見て、なんじゃこりゃ!と、控え目ですが松田優作モドキで突っ込むシーンなんて、松田龍平が演じている馬締あってこその映画前提の突っ込みですし。
こういう部分に力を入れて、観た人が純粋に楽しんで、馬締を応援して、最後にすっきりと出来る映画を目指して作られているんであれば、十分すぎる成功映画だと思いました。

4.評価

個人的な好き度合い: (1/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

面白かったです。原作との違いに躊躇いましたが2度見てどっぷりはまりました。映画版は”まじめちゃん”と”にいに”のBLだと思ってニヤニヤ楽しめました。

世間の評価は以下のような感じです。

Filmarks3.8
映画.com3.8
amazon4.4

面白いという方の意見:

・馬締の成長とそれを支える人の和が心地よい。
・辞書作りを通して日本語への理解と感謝が深まる。
・辞書を作ることの大変さを知った。
・仕事に打ち込む姿、周りとの一体感に気持ちが高まる。
・観た後に優しい気持ちになれる。
・「舟を編む」というタイトルが良い。
・役者陣が豪華。演技力も素晴らしい。
・松田龍平の自然過ぎる演技、地の性格ではないかと思う程にはまっている。
・オダギリジョーの軽さと笑いがツボにはまる。
・宮崎あおいが可愛い。
・日本家屋や本の山等の美術面も良く、失われつつある時代の風景が描かれているのも嬉しい。

面白くないという方の意見:

・原作の良さを生かせていない。オリジナルが多すぎて受け付けない。
・アニメ版と違い過ぎてイメージを壊された。
・香具矢が馬締のどこに惹かれたのか判らず違和感がある。
・人を蔑む表現が多すぎて不愉快。
・馬締がボソボソとしゃべり過ぎて聞き取れない。

世間の評価を見ての印象:

概ね好印象なんですが、原作との違いで不評とする方も少なからずいる中、アニメ・漫画版との違いで不評とする人もいて、こうなってくるとどれが正しい「舟を編む」なのか判らないですね。
そのことが悪いことだとは思わないですし、面白い現象だな。と思いながら観ていました。

香具矢が馬締に惹かれる理由が判らない。という意見は多く、だよね!とちょっと安心しました。
後は、役者陣への評価が高いですが、とにかく豪華すぎる役者陣なので、キャスティングだけでも気合がかなり入っていますよね。
オダギリジョーへの人気が高く、一番笑わせてくれる役割で、映画のテンポも生んでいたのが彼なので、この辺りは当然なんでしょうね。
個人的にはもう少し落ち着いた『メゾン・ド・ヒミコ』『重版出来』辺りのオダギリジョーの方が好きなんですが。。。

美術面の評価も高かったです。
僕自身は初見で拒否感が出た古すぎる映像と美術が混ざってしまって、あまり好んではいなかったのですが、言われてみれば手の込んで趣のある背景だったように思います。

amazon prime videoで観る。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・幸せな気持ちになれる映画を観たい人。
・とにかく笑いたい人。
・読んで仕事への意欲が高まる映画。
・困難な状況に仲間と立ち向かう一体感を感じるのが好きな人。
・役者の演技力を感じたい人。
・美術面の素晴らしさを感じられる映画。
・観やすくスラスラと楽しめる映画。
・男同士の友情の芽生えに萌える映画が好きな人。

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