映画感想『ノマドランド』

1.映画情報

作品名:ノマドランド (Nomadland)
ジャンル:ドラマ ロードムービー
鑑賞履歴:2021/6/28(U-Next)
公式サイト:公式
wikipedia:wiki
監督:クロエ・ジャオ
制作年:2021年
制作国:アメリカ
上映時間:108分
配給:サーチライト・ピクチャーズ(アメリカ) ウォルト・ディズニー・ジャパン(日本)
メインキャスト:フランシス・マクドーマンド デヴィッド・ストラザーン ノマドの人々
スタッフ:制作・脚本・編集(クロエ・ジャオ)、音楽(ルドヴィコ・エイナウディ)
原作:『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』ジェシカ・ブルーダー
受賞歴:第93回アカデミー賞 作品賞 監督賞 主演女優賞
    第77回ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞(最高賞)
予告動画:

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2.あらすじ

あらすじ、作品情報は公式サイトからどうぞ。

3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

映画を観ながら、謎かけを出されているような気持ちで観ていました。
ファーンが胸の内に抱える苦悩はなんだろう?
序盤はずっとそのことを探しながら観ていました。
映画は静かにノマドとして生活する人々の姿を描き、彼らが持つ貧しさへの拒否感や人生への後悔、そして社会への不満から、背景にあるアメリカという国の現状とノマドの人々の現実を浮き立たせていきます。
そして淡々とノマドの人々と関わるファーンの日々を描く中で、彼女の亡き夫への思いと社会への拒絶が明らかになっていきます。

彼女の中にあった、おそらく彼女自身が子供の頃から持っていたであろう社会への違和感のような物、そして夫や町の人々を失った喪失感。
その2つは密接に結びついて彼女の自己を形作っていたように思いました。

違和感として感じたのは、彼女自身が社会で暮らす人々と衝突し、また誰かから手を差し伸べられることに対してその多くを拒んでいた部分です。
ホームセンターで同じ故郷に住む女性や、ガソリンスタンドの店主、実の姉や、彼女に好意を寄せるデイブなど。
そこには自身を異質と認め、誰かと交わることで彼らの世界を乱してしまうことへの恐怖を感じているように思い、それが彼女の違和感であり、社会から感じる疎外感のように感じました。

喪失感は、彼女がかつて家族の元を離れ、夫と築き上げた新しい場所での生活、夫を亡くした後もその土地で生きていたものの、その土地自体がなくなってしまった事実。
社会に違和感のある彼女だからこそ、やっと作り上げた居心地の良いコミュニティのような世界を無くした意味は大きく、もう一度、貴賤で人の価値が決まるような社会に戻って生きていくのは難しかったんだと思います。

ハウスレスと言いながらかつての土地の近くで車上生活を続けていた彼女は、この喪失感を抱え、なおかつ疎外感から社会にも入っていけず、動けないノマドのような存在だったのだと思います。
彼女が生活を求めてノマドのコミュニティに参加したのは本意ではないように思いましたが、その後、多くのノマドと接する内にその世界へ傾倒していくのは自然な流れのように感じました。
特にスワンキーとの出会いは大きかったように思います。
不必要な物は持たず、記憶と思い出に向かい合い、生のあるままに心が欲する物を求めてバン一台で放浪する生活。
かつての記憶と向き合いながら、それ以外の物に縛られることの少ない生き方、そして時に自然の中に溶け込み、自身の存在をその中に感じる生き方は、彼女自身の喪失感と違和感を受け入れてくれる生き方のように思いました。

ラスト、冒頭で捨てられなかったレンタルルームの荷物を処分した彼女は、出発点の街と家を訪れ、もう一度旅慣れたバンで走り出します。
かつて失意の中で生活を求めて旅立った場所に戻り、今度は少しだけ気持ちを軽くして、新たにノマドとして旅立っていったように感じました。
彼女の新しい旅が心を癒す平穏の旅であり、多くの仲間と再び巡り合えることを祈りたい気持ちになるラストでした。

映画としては、美しい景色と、感情に直接響く音楽が素晴らしく、ファーンの心情を受け入れる手助けになっていたように感じます。
音楽はルドヴィコ・エイナウディ、『最強のふたり』でピリピリする感情をあらん限りに表現していた方です。
今回も素晴らしい仕上がりでした。

役者としては、フランシス・マクドーマンドがひたすら凄かったです。
ファーンの感情は大きな波や小さな波でひたすら動き続ける謎かけのような感情でしたが、穏やかな口調で芯の強さも感じさせながら全てを丁寧に演じきった感のある演技でした。
『ファーゴ』に続いての視聴でしたが、今作でもアカデミー賞の主演女優賞を取ったそうです。

4.評価

個人的な好き度合い:★☆☆ (1/3)
割と好きな映画です。

世間の評価は以下のような感じです。

Filmarks3.8
映画.com3.7

面白いという方の意見:

・ファーンの揺れ動く気持ちの心理描写が素晴らしい。
・ノマドの生き方に憧れる。人生の価値観が変わった。
・お別れをしないノマドの生き方に共感する。
・実際のノマドの方を役者として起用しているリアリティ。
・ドラマとドキュメンタリーの融合が説得力がある。
・ハウスレスという言葉がしっくりくる。

面白くないという方の意見:

・何も起きない映画。つまらない。
・ロードムービーならではのワクワク感がない。
・ファーンやノマド自体の思想に違和感を感じる。貨幣主義の否定など。
・音楽が合っていない。耳障りに感じる。

世間の評価を見ての印象:

自分に取っても久しぶりに芸術寄りの映画だったので、少し身構えて観てしまった部分はありますが、そういった部分が評価としても分かれているように思いました。
これに関しては好き嫌いもあるのでしょうがないですね。
ノマドという生き方に憧れる。という部分も多くの方が賛同していました。
僕自身は一人で生きられない方なので、そういった生活は絶対に無理なのですが、家族と放浪というのであれば楽しそうです。
そうするとこの映画に書かれているノマドとは異なり、ただの旅行者になるのですが、誤解を恐れずに言うと、極論ではファーンもそういった生活に自由と楽しみを感じたという前向きな映画ではないのかな?という気もしています。

あとは、ハウスレスは多くの方がテーマとして挙げている言葉でした。
ホームレス、ハウスレス。似て非なる物ですが、僕自身もこの言葉にはインパクトを受けた一方、ファーンがこの言葉を発したのは半分強がりで、後半のファーンにホームレス?と聞いたら、そう!と笑顔で答えそうな変化もあったように思います。

最後に、映画作りとして自然の風景、音楽(一部批判もあり)、役者、トータルでみて評判は良かったように思います。
テレンス・マリック等も引き合いに出されて、確かにそんな雰囲気はあります。
クロエ・ジャオ監督、「ザ・ライダー」も凄く評判が良いので観てみたくなりました。
後はマクドーマンドさん、実際にノマドの生活やamazonでの業務を経験して臨んだとか、原作から映像権を買ったのも彼女らしいですし、意気込みが感じられる映画だったと思います。
その分、思想的な部分は少し映画に放り込んだのかな?とも思いながら、貨幣主義やネイティブアメリカンの思想やらと言った話がなければ、もう少し僕もお気に入り度が上がったような気がしなくもないです。

amazon prime videoで観る。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・人生に絶望を感じて全てを放り出したい人。
・社会問題に切り込んだ映画を観たい人。
・役者の演技力を感じたい人。
・旅に出たい人。
・音楽が最高の映画。
・映像美を感じられる映画。

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