映画感想『ドライブ・マイ・カー』

1.映画情報

作品名:ドライブ・マイ・カー(Drive My Car)
ジャンル:ドラマ ロードムービー
鑑賞履歴:2021/8/25(TOHOシネマズ 与次郎)
公式サイト:ビターズ・エンド公式
wikipedia:wiki
監督:濱口竜介
制作年:2021年
制作国:日本
上映時間:179分
配給:ビターズ・エンド
メインキャスト:西島秀俊 三浦透子 霧島れいか 岡田将生
スタッフ:脚本(濱口竜介 大江崇允)、音楽(石橋英子) 撮影(四宮秀俊)
原作:『ドライブ・マイ・カー』(短編小説集『女のいない男たち』) 村上春樹
受賞歴:第74回カンヌ国際映画祭 脚本賞 国際映画批評家連盟賞 エキュメニカル審査員賞 AFCAE賞
予告動画:

映画『ドライブ・マイ・カー』90秒予告

2.あらすじ

舞台俳優の家福は、自身の不在中に妻が男を家に入れ、性交している現場を覗き見てしまう。
妻にはそれを告げずに夫婦生活を続けるが、妻は突然死してしまう。

二年後、舞台に上がれなくなった家福は演出家として広島に招かれるが、そこでの日々を通して、徐々に過去と向き合うようになり。。。

3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

ゆっくりと3時間の映画。
長さが気になるかと思っていましたが、穏やかに心を通わせていく彼らのスピードに合わせてこの映画の感情に寄り添うには、むしろ、十分に気持ちを受け止められる長さとスピードだったように思いました。
車の中、無口な二人が必要最低限で交わす言葉は自らの心の傷で、それを受け止めた側も自分の傷をさすりながら心と相談して、相手を労る言葉を返していく。
安易に傷を記憶の隅に追いやらなかった彼らだからこそ、互いに心に染み入る親密な言葉のやり取りになったんだろうと思いながら。

村上春樹作品で原作は数年前に読んでいますが内容はすっかり忘れており、しかも短編を3時間物で作っているとあれば、改めて読み返すと映画の空気感を受け取ることが出来ないような気がしたので、そのまますっからかんの状態で観ました。
冒頭から家福の妻の音がセックス後に無意識でストーリーを語り出すという村上春樹的な内面世界を披露しつつ、いったいこの世界がストーリーの中でどう並行して歩いていくのかと思ったら、どちらかと言うとこの現象はあくまで現象で、むしろそれが出始めた要因として、夫婦の娘の死が音の心を捻じれさせて描かれていたような。
音にとっては娘を亡くしたことで、夫を愛する気持ちとは別に、夫以外とのセックスを求めることが(それが別人格なのか?は別にして)一つの心の傷なんでしょう。
そんな妻を愛し、一方で妻を失いたくなかったとの思いから裏切りを見て見ぬを振りをし、妻に先立たれた家福の心の傷。
そして、母に虐待されながらも、母の別人格を友達と呼ぶ渡利の、母を見捨てて死なせたという心の傷。
高槻にとっても音を亡くし、本人の気質故の過ちを繰り返しながらも家福に執着する、これも心の傷のような。

そんな4人の心の傷が交錯する物語。
そして、家福と渡利が大切な人の死によってもたらされた心の傷を受け止め、ラストで自らの生き方を取り戻していく再生の物語。

家福にとって演じるとは役を自らの身に宿し、自身がその代弁者となることで成し遂げられる物だったんでしょう。
言わばすっからかんの自分だから役が憑依できるというか。
けれど、音を亡くして家福は自らの感情が強くなり、役を宿すことが難しくなって演技を辞めてしまう。
そんな家福にとって、渡利の北海道への旅路の最後で、渡利の言う「裏切りと感じる部分も含めて、妻を愛すればいい」という言葉は、この旅の最後、演技を迷う家福にとって、妻の死もその疑いも、自分の後悔も全てを受け止めて前に進んでいく事を肯定してくれる言葉のようでした。
ラスト、自ら役者に戻り、全ての自分を曝け出していく姿は迷いの吹っ切れた強さがあり、また、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」のラストで必死で生き抜いていく姿を描くのは彼の心情ともシンクロした素敵な幕切れでした。

渡利もすっきりとした笑顔で、家福のサーブを運転し、ユンス夫妻の犬?を連れ、韓国で暮らす姿。
家福と結婚した?
ユンス夫婦も一緒に移住した?
嫌な記憶を忘れないように残していたほっぺたの傷も消えているような?
映画の中では明かされませんが、彼女の家福への妻の全てを受け止めるという言葉は自身にも向けられた言葉であったでしょうし、家福の吹っ切れた演技も彼女にとって新しい道を示してくれたんでしょう。
そんな中で、舞台を通して知り合った仲間達と新天地で暮らすという結末であればそれは幸せだな。と思いながら。
勿論、家福が妻との思いの詰まったサーブを手放し、彼女が一人韓国に渡るという結末でも十分幸せですが。

改めて映画に関して、濱口竜介監督の作品は初めての視聴でした。
練り込んだ脚本と、そこに描かれる心の通いを信じて、ゆったりと映画を作るのはかなりの自信と力量があっての作品作りではないかと驚きました。
ドライブ中のシーンも多いので、寡黙な二人の会話劇で展開するストーリーはなかなか挑戦的な作りのように思います。
その中で、家福の座席が後部座席から助手席に変わったり、雪の目的地に到着した際に無音状態を描いたり、所々、効果的な変化を加えながら、こういうのを見せられると長いはずの旅のシーンも一切の無駄を感じなく不思議。
そしてもう一つ、この映画の影の主人公と言える赤のサーブ900TURBO、なんと言っても、自分にとって20年以上憧れている旧車です。
いつか手にしたいと思いながら、この映画の印象がしっかりついてしまって、少し苦々しく思いながら。
とは言え、この車は斜め後ろからの角度がかっこいい。
ひたすらこの車のドライビングを眺めているだけでも十分に楽しめる物でした。

4.評価

個人的な好き度合い:★☆☆ (1/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

過去を悔い、心に傷を持った男女が、生きる意味を問いかける物語です。

男女の心情を丁寧にゆったりと描いており、観客として彼らに寄り添う時間とスピードは3時間という長さでも丁度良いと感じる程でした。

村上春樹原作。カンヌで日本映画初の脚本賞受賞作です。

世間の評価は以下のような感じです。

Filmarks4.2
映画.com4.0

面白いという方の意見:

・多くの言葉、手話が飛び交う映画。ゆっくりと会話が通じていくのが心地よい。
・村上春樹の小説と同じように、セリフを繰り返し意味を深めていく感覚が良い。
・丁寧に描かれた心情の変化に共感する。
・演劇「ワーニャ伯父さん」「ゴドーを待ちながら」をストーリーと対比しながら使用しているのが上手い。
・車の中での会話に印象的なシーンが多い。
・3時間の長さを感じさせない脚本と演出のすばらしさ。
・サーブ900ターボの存在感がいい。
・短編映画がこの長さになる驚き。
・最近の岡田将生は癖のある役どころが多いがよくはまっている。

面白くないという方の意見:

・多言語の飛び交う舞台に付いていけない感があった。
・妻、音(霧島れいか)は役どころと合っていない気がした。
・性描写が多く、音が気持ち悪かった。
・ラストの抱き合った辺りで心情を全て伝えすぎ。もう少し観客に委ねていい。
・村上春樹の雰囲気が苦手。優柔不断。

世間の評価を見ての印象:

村上春樹が原作故の好き嫌いとしても大分意見が分かれていたように思います。
ファンからは概ね好印象ですが、一部、セリフや設定を替えたことへの不満等も。
とは言え、上手く空気感を吸い上げて、題材を生かしてくれたことへの喜びが多かったですね。
アンチからはやっぱりセリフ、雰囲気が好きになれないと。
もう少しはっきりと意思表示しろ!と、そういう所が引っかかるんだな。と思いながら。
この人らしい評価のされ方ではあるんでしょうけれど。
個人的には、村上春樹原作というのはほとんど意識せずに観ていました。
『女のいない男たち』も割と現実的な話が多かったように思いますし、特にこの作品の中でらしさをそこまで感じる部分もなかったかな。

ラスト、渡利が何故韓国に居るのか?
その辺りの謎も賛否が分かれていましたね。

一点だけ、個人評価で★★☆以上は自分のベスト作品入りとしているのですが、★☆☆にした理由は1つありまして、渡利の家を訪問した際に家福が自身の感情を全部説明してしまうのがどうしても気持ちよくなくて。
長い時間、特に広島から北海道までのドライブを見ながら、ずっと彼の心情を考えていて、きっとこうだろうと思った内容を自分だけの宝物にしようと思っていたら、全部明かされて、あ~ぁと、ちょっと残念に思ってしまったのは事実です。
心情を観客に委ねるのか?描き抜くのか?というのは難しい選択なんでしょうけれど、好き嫌いレベルでここは委ねて欲しかった。と、少し(あくまで個人的に)残念に感じた所でした。

amazon prime videoで観る。

※新作の為、未配信。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・過去を悔やんでその思いから抜け出せない人。
・人生に絶望を感じて全てを放り出したい人。
・脚本の素晴らしさを感じられる映画。
・中年の男の魅力に取りつかれた人。
・家族を失った悲しみを描いた映画。
・ロードムービーが好きな人。
・車好きな人。

amazonでBlu-ray・DVD・原作を購入する。

※新作の為、未販売。

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