映画感想『ケス』

巨匠を観る』企画、9作目(全27作)の映画です。

1.映画情報

作品名:ケス(Kes)
ジャンル:ドラマ
鑑賞履歴:2021/8/16(U-Next)
公式サイト:
wikipedia:wiki
監督:ケン・ローチ
制作年:1969年
制作国:イギリス
上映時間:112分
配給:シネカノン
メインキャスト:デヴィッド・ブラッドレイ
スタッフ:脚本(ケン・ローチ、バリー・ハインズ、トニー・ガーネット)
原作:バリー・ハインズ
受賞歴:
予告動画:

Kes (1969) – Original trailer

2.あらすじ

イギリスの炭鉱町で暮らす少年(中学生?)ビリー。
家は貧しく、体も小さく身なりも汚い。
学校でも教師から疎まれる日々を送る中で、森の中でハヤブサのヒナと出会い育て始める。

ハヤブサと少年の交流を描きながら、大人へと成長していく少年の鬱屈した思いを描く。

3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

ケン・ローチは大好きな監督さん。
『大地と自由』『カルラの歌』『マイ・ネーム・イズ・ジョー』辺りを観て、なんてバカ真面目な監督さんなんだろう。と思いながら。
この人の映画って、言いたいことが何か一つあって、それを言いたいが為に映画一本作って、そして主人公は完全にケン・ローチの代弁者で、苦悩して、打ちひしがれて、そこから立ち上がって、けど絶望して終わるっていうような。
だけど、その絶望の中に言いたい事があって、その真っ直ぐな愚直さに触れてしまうと好きにならざるを得ない。っていう。
『大地と自由』で言えば戦争の正義や理想みたいな物が崩れてしまう姿や、『カルラの歌』で言えば祖国がどんな姿でも美しく焦がれる物はそこでしか見つからないという事であったり。
そんな物をただ真っ直ぐにぶつけて映画を作ってくる所が、愚直で不器用過ぎて、けれど魅力的だと思っています。

そんな中で、初期の名作と言われる『ケス』はなかなか観る機会がなく、BS辺りでいつかやってくれればと思っていたんですが、VODで観られる事に気付き、大喜びで観てみました。
ただ観始めてから、しまったな。と思ったのが、主人公が年端のいかない少年なので、なかなか思いを吐き出す事も儘ならず、どちらかと言うと周りから一斉に責められ、蔑まれ、いびられ、そんな姿を延々と観る羽目に。
なんなんだ。この残酷ショーは?と思いながら、なかなか感情移入し辛いですね。
そうこうしている内に大きな感情の吐き出しもないままにストンと終ってしまって、う~ん。と思いながら脳内再生でケン・ローチが言いたかった事を追いかけてみたりしながら。

でも言いたい事って、この時代、60年代当時のイギリスの労働者階級の貧困と、それに対する社会の厳しさへの怒り。なんですよね、きっと。
当時のイギリスは僕でも知っている程度に経済不振で、おまけに労使紛争が多くて労働者が働かず社会が機能していなかった時代、特にこの映画の舞台は炭鉱町で、その先の衰退も予想される街。
この国の苦しい労働者層やその時代の退廃感を描いた映画としては『トレインスポッティング』や『フルモンティ』『ブラス』等、イギリスのお家芸と言っていい程、名作も多いです。
この映画でも、父親は蒸発し、母親もほとんど構ってくれず、兄は街で有名なゴロツキで主人公のビリーにも暴力的。
バイト先の店主には出自を蔑まれ、体育教師からは暴力と露骨な体罰、校長からも目の敵にされ、同級生からもバカにされる。
いや、もう、貧しさが卑しさを生んで生活が荒み、社会の無関心がそれを更に助長して、ロクでもない子供達が増えていくっていう、こんな言い方はあれですが、僕が子供の頃も貧しい団地の子供でこういう子が何人かいたよな。と思いながら。
けれど、その子達もそうでしたが、どれだけ周りから蔑まれる子達でも心から病んで腐っているわけではなく、子供らしい純粋さは持っていて、褒められたり優しくされる事で、その子なりの矛盾や思いをきちんと伝えてくれたりするんですよね。
そういう意味で、ハヤブサ(鷹ではないらしい)の飼育に没頭しその存在に畏敬の念を持つ姿や、彼に目を掛ける教師に対して思いを吐露する姿等は、こういった少年達の本質を捉えていて、社会の未熟さがこういった子達を上手く受け入れてくれない実情に腹を立てたりもするんですが。
ただやっぱり自分にはこの子への感情移入までは至らない。。。
多分、子供を扱った映画がダメなんだよな。
『ミツバチのささやき』とか、『運動靴と赤い金魚』とか。
自分に子供が生まれた事で、そういった映画も観れるようになるんじゃないか?と思っていましたが、まだ2歳だしな。
なかなか子供映画は自分にはハードルが高いと、改めて自覚させられた感のある映画でした。

4.評価

個人的な好き度合い:☆☆☆ (0/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

この当時のイギリスの労働者層の現実も描きながら、救いのない少年の姿にケン・ローチらしい社会の矛盾への強い怒りを感じる作品でした。

個人的に映画の中でケン・ローチの声を代弁する声が少年だとなかなか感情移入し辛く、他の作品ほど入れ込めなかったというのが少し残念でした。

世間の評価は以下のような感じです。

Filmarks4.0
映画.com4.0
amazon4.1

面白いという方の意見:

・少年に付き纏う閉塞感が痛々しい。
・ケン・ローチらしい社会派作品、そして救いがないのもこの人らしい。
・ハヤブサのケスとビリーの交流に少年らしさが感じられ瑞々しい。
・ビリーの体の大きい相手にも立ち向かう気高さにケン・ローチらしい強さを感じる。
・ビリーの未来が強く、自分の道を生きるものであることを願う。
・教師たちのクズっぷりが腹が立つ。

面白くないという方の意見:

・暴力描写が不快。

世間の評価を見ての印象:

感想の中でも残酷ショーと書いていますが、ひたすら外部の暴力に耐えるという映画は僕自身も好きではなくて、過るのは是枝監督の映画と何が違うんだ?っていう所なんですが、自分でも映画を観ながらそこは考えていました。
結果、良く判らない上に、ケン・ローチと是枝監督も相思相愛といった所もあって、なんとも立場がなかったりするんですが、好き嫌いレベルでなんか違うんですよね。
強いて言えば作り手としての真剣さが伝わるかどうか?という、これを言うと是枝監督のファンからは更に叩かれそうな気がしますが。

もう一点、僕はこの世代の男の子の気持ちには寄り添えない。と、どうしてもそこが気になってしまいましたが、高評価の方はしっかりとこの少年の魅力も語られていて、自分自身に対して、なんだかな~。という気持ちになりながら。

amazon prime videoで観る。

※視聴不可です。
 U-Nextであれば観れます。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・人生に絶望を感じて全てを放り出したい人。
・社会問題に切り込んだ映画を観たい人。
・観た後に嫌な気持ちになる映画を観たい人。
・子供の純真さを感じたい人。
・生まれ育った環境への不幸を感じたい人。
・青春の息苦しさが感じられる映画が好きな人。
・胸糞キャラを観るのが好きな方。

amazonでBlu-ray・DVD・原作を購入する。

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