映画感想『パリ、テキサス』

『巨匠を観る』企画、7作目(全27作)の映画です。

1.映画情報

作品名:パリ、テキサス(Paris,Texas)
ジャンル:恋愛 家族 ロードムービー
鑑賞履歴:2021/8/10(U-Next)
公式サイト:
wikipedia:wiki
監督:ヴィム・ヴェンダース
制作年:1984年
制作国:フランス、西ドイツ、イギリス
上映時間:147分
配給:フランス映画社(日本)、20世紀フォックス(アメリカ)
メインキャスト:ハリー・ディーン・スタントン ディーン・ストックウェル ナスターシャ・キンスキー ハンター・カーソン オーロール・クレマン
スタッフ:脚本(L・M・キット・カーソン サム・シェパード) 脚色(サム・シェパード) 音楽(ライ・クーダー)
原作:『モーテル・クロニクルズ』サム・シェパード
受賞歴:第37回カンヌ国際映画祭 パルム・ドール(最高賞)
予告動画:

映画『パリ、テキサス』予告編 ヴィム・ヴェンダース

2.あらすじ

テキサス州の砂漠で倒れた言葉をしゃべらない男。

迎えに来た弟と徐々に会話を始めるものの、妻と息子と不通になってから4年間の記憶や、行方不明になった原因は判らないまま。
やがて弟夫婦と暮らす息子と再会し、徐々に父子の関係を取り戻していくが。。。

3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

妻を愛し過ぎた結果、愛情の対価を測る様になって相手を傷つけてしまう。
それはとても不幸なことなんですが、その思いに憑りつかれてしまったトラヴィスにとっては、自分自身は幸福の中に災いをもたらしてしまう悪魔の様な存在なのかもしれないですね。
それを自覚しているから、新たな三人での出発を望んでいたにも拘らず、そこから一人だけ降りてしまう気持ち。
自分自身を知った上での強い意志があるからそうするのか?、それともどうにもならない自分自身への弱さからの逃げなのか?
ただ、その決断をせざるを得なかった彼の心情を思うと、切なさしか残らない悲しい話だと思いました。

それにしてもラストに至るまでのストーリーの展開が素晴らしく練られていて、観客を引き付ける素晴らしい脚本だったと思いました。
言葉を発しないトラヴィスへの謎から始まって、その謎説きの話かと思えば息子との通い合わない関係が描かれるようになって、その関係を取り戻す話がラストまで続くのかと思えば、今度は二人で母親を探しに出る話になって、巡り合った母親と幸せになるのかと思えば、トラヴィスだけがそこを去ってしまう。っていう。
なんというか、次の流れを予測したり、不安になったりして見守りながらも、あっさり裏切られて別の展開に行き、けど、トラヴィスの闇って何?っていう謎はずっと持ち越しのまま。
なんだろう?
観客として心情を軽く弄ばれているような老獪さもありつつ、心地良さと謎解きへの挑戦を感じるような脚本。
でも、その結果、トラヴィスの本心が全て明かされるか?というと、そこは観客に委ねられるし、この先のトラヴィスの行く末も示されない。
凄い絶妙な展開と観客との距離感を持った脚本ですよね。
原案と脚本は役者のサム・シェパードですが、ヴィム・ベンダースとはもう一本『アメリカ、家族のいる風景』も撮っているそうで、そちらも気になります。

話は逸れましたが、謎から始まり心地よさで進んだ息子ハンターとの心の通い合い。
8ミリの映像の中でトラヴィスと妻のジェーン、そしてハンターが幸せそうにそして穏やかに心を通わせる姿が印象的で良いシーンでした。
この映像を機にトラヴィスとハンターの間には親子としての自覚と信頼が芽生えていくというのは自然ではあるし、子供心に持っていた家族への違和感が晴れていく過程として、実の親子の幸せな映像が媒介されるというのは心地よい物でした。
けれどその一方で、こんなに仲の良かった家族が、この後わずかな期間でどうして崩れていくのだろう?という疑問もあって、後々、トラヴィスも妻の事を母親として未熟というような言い方をするし、??と思いながら、更にトラヴィスの謎を深めてストーリーは進んでいきます。

トラヴィスの闇って、冒頭の通り、愛しすぎて疑り深くなって、余計なことまで思い込んで、相手を傷つけてしまう。っていう、多分、そういう事なんだろうと思っています。
彼がジェーンとの2度目の覗き部屋で言う通り、
愛しすぎた結果、働きに出られなくなり、そうするとジェーンが金の不安を持っていると思い込んで暴れたり、酒に逃げたり、
働いたら、出ている間に浮気しているんじゃないか?と不安になったり、
それで愛情を確かめようと自分が浮気しているふりをして嫉妬しないか?を確かめたり。
子供が生まれたら彼女が変わってしまった。と思い、今度は必死に頑張って元の生活を取り戻そうと努力した等。と言ったり。
おまけに自分が束縛する程、妻がおかしな夢を見るようになり、それで更に束縛を強めてしまう、とか。
なんでしょうね?
被害妄想というか、極度の不安神経症というか。
その一方で、彼の父親がそうであったように、妻をパリの生まれだと冗談で言っている内に本当にそうだと信じ込んでしまって、というこっちは妄想の世界に支配されてしまうような。
多分、父親の妄想癖、思い込み癖が自分にもあると感じていて、そのせいで被害妄想的に愛する人を傷付けてしまう自分の怖さ。みたいな物が、彼自身にはどうしようもないような不安で恐怖なんでしょうね。

思えば一回目の覗き部屋でも、素性を隠すのはともかくとして、ジェーンの店外での逢引きや売春を問い質してしまう彼。
していない。というジェーンに対してのこの過剰な反応は被害妄想に近いヒステリックな反応だと思いました。
でも、この件で彼自身が根本的な不安症が何一つ解決していないことを痛い程に痛感してしまって、この時点でもう、三人で暮らすっていうのは諦めたんでしょうね。

翌朝、ハンターにヒューストン行きを再度促されて、その後のホテルでハンターへの別れを録音したように、一緒になれば妻と息子を傷付けて壊してしまうと判っている自分が家族に戻るという事は出来ないと、彼が父親としてその時に唯一出来た決断が去るという事であれば、これは可哀そうだな。と、本当に切ないと感じてしまいます。
けれど、トラヴィスなりに吹っ切れたのか、2度目の再会では自分の中の妄想の部分も含めて全てをジェーンに聞かせる。
ジェーンからすれば初めて知る、トラヴィスの中の被害妄想的な思い込みと、不安神経症的な猜疑心。
そして、彼が自身の中に悪魔の様な闇深さを持ちながらも、彼女をずっと愛し求めていたという事実。
けれど、ジェーンも自らの思いを告白し、トラヴィスと別れた後も、いつも心の中で彼と会話し、彼の存在が薄まってからも覗き部屋での会話では彼を思い浮かべていたという事実を伝える。
結局、お互いの愛情は全く失われていない中で、彼らは別れ、その後も求め続けていたという事実は、やり場のない思いしかなく、8ミリの映像で見た当時の愛し求めあう二人が本来の彼らの姿だったんだと知るのはやるせない。
けれど、トラヴィスからすれば、自身の中に悪魔がいる以上、やっぱり一緒にはなれないんでしょう。
同じことを繰り返すだけだから。。。

どうしてお互いに愛し合っているのに一緒に居られないのか?
マジックミラー越しにその思いをぶつけあう二人が印象的で、儚くやるせないシーンでした。
そして、自分は引いた立場で、親子を取り戻すハンターとジェーンを一人駐車場から眺め、立ち去るトラヴィス。
映画を観ている僕自身も、不器用すぎる彼の生き方を、ただ受け入れて見守るしかなく、何も言葉を言えなくなる絶望感を感じて観ていました。
彼はまた、テキサスのパリスという土地を目指して旅立つのでしょうか?
いつか、彼自身の思いをジェーンとハンターが汲み、その土地へ彼を訪ね巡り合う未来がないだろうか?と、そんな夢の様な未来も思い浮かべながら、それすらもトラヴィスは拒むのだろうか?と悩んでしまうラストでした。

4.評価

個人的な好き度合い: (2/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

心から良い映画でした。

心地良い家族の再構築の流れと並行して、徐々に明らかになる男の謎。
ラストに向けて夫婦の思いが明かされていく、切なく悲しい映画でした。

心の通い合いを優しく描きながら、観客との距離感をしっかりと持った脚本も素晴らしい作品です。

世間の評価は以下のような感じです。

Filmarks4.1
映画.com3.8
amazon4.1

面白いという方の意見:

・ライ・クーダーの優しく儚いスライドギターの調べが映画とよく合っている。
・ナスターシャ・キンスキーの登場シーンが美しすぎる。
・スローペースなロードムービーで進む映画の空気感が好き。
・フィルムから感じる赤と緑の色味が個性的な映像。美しい。
・マジックミラー越しに男女が会話するシーンは映画史に残る。
・ラストの母子の再会が泣ける。

面白くないという方の意見:

・トラヴィスが去らなければいけない理由が判らない。
・ロードムービーとして期待していた映画ではなかった。
・ダメな男を美化しただけの話としか感じない。
・育てた弟夫婦がかわいそう。

世間の評価を見ての印象:

ホラー映画がラストの衝撃を抜きにして語れないように、この映画はロードムービー、家族の再構築、恋愛と様々な要素を持ちながらも、ラストを抜きにしては語れない映画なんでしょうね。
ハンターとの心を通わせ合う前半部分の心地良さはともかく、ラストに向けてのマジックミラーのシーンや、トラヴィスが家族から離れるという衝撃がとんでもなく魅力的で、世間の感想もラスト近くへの言及が多いように感じました。

個人的にも、家族が仲良く暮らすという期待が完全に裏切られて終わるラストは、脚本の妙だと思っています。

あとは、ナスターシャ・キンスキー演ずる妻ジェーンの破壊力は凄いですね。
ライ・クーダーのギターは映画と非常に合っていて、落ち着きを持った音楽への評判も高かったです。

amazon prime videoで観る。

※視聴不可です。
 U-Nextであれば観れます。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・人生に絶望を感じて全てを放り出したい人。
・旅に出たい人。
・ロードムービーが好きな人。
・家族のつながりを感じたい人。
・子供の純真さを感じたい人。
・会えない家族への思いを募らせている人。
・音楽が最高の映画。
・映像美を感じられる映画。
・ラストが衝撃的な映画。
・ダメ男に惹かれる女性の人。
・会いたくても会えない男女にふるえる人。
・男女の別れ話の切なさが好きな人。
・ダメ人間が好きな人。
・女優の美しさに見惚れる映画。

amazonでBlu-ray・DVD・原作を購入する。

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