『巨匠を観る』企画、12作目(全27作)の映画です。
1.映画情報
作品名:ナッシュビル(Nashville)
ジャンル:ドラマ ブラックコメディ
鑑賞履歴:2021/8/20(U-Next)
公式サイト:
wikipedia:wiki
監督:ロバート・アルトマン
制作年:1975年
制作国:アメリカ
上映時間:159分
配給:パラマウント映画
メインキャスト:ヘンリー・ギブソン ジェラルディン・チャップリン リリー・トムリン ロニー・ブレイクリー カレン・ブラック キース・キャラダイン リリー・トムリン
スタッフ:制作(ロバート・アルトマン)
原作:『雨月物語』上田秋成
受賞歴:第48回アカデミー賞 歌曲賞(”I’m Easy” キース・キャラダイン)
予告動画:
2.あらすじ
70年代の政治批判の強いアメリカを背景に、保守的な土地でスター達を政治利用する姿をシニカルに描いた、総勢24人が入り乱れる群像劇です。
それぞれの思惑が交錯する中で進められるストーリー。
バラバラの24人がラストに向けてどう関わってくるか?
3.感想
※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※
アルトマンは『M★A★S★H』を観てあまりのどぎつさ、不謹慎さに不快感を感じてしまい、とは言え、映画を観て間もない頃の感想だったので、改めて群像劇の傑作と言われる『ナッシュビル』を観れば何か違うかも。と思い観ました。
わちゃわちゃ、がちゃがちゃと騒がしい映画の中で、皮肉や侮蔑ばかりが描かれる展開にちょっと首を傾げながら。
終いには、スターとの競演を夢見る女性が選挙資金集めのパーティで歌うものの余りの歌の下手さに客が騒ぎ出し、場を収める為に選挙側の責任者からストリップをすることを命令され、混乱した頭のままでそれに応じてしまう姿を観ると、流石に毒気が強すぎてうんざりを通り越して怒りを感じてしまいました。
しかし、それでもこの映画に何か大きな変化があるとすれば、ラストに全員が天地のひっくり返る様な(例えばカエルが降ってくるような)思いをして、そこに何らかの救い的な物があるんじゃないだろうか?と思い、観続けてラスト。
なんでしょうね。
このじわ~っとした感触。
なんでこうなるの?と思いながらも、こんな滅茶苦茶な状況が一つに纏まってしまったように感じてしまう不思議さ。
出る人間それぞれから発せられていた、見栄や、猜疑心や、お金や、性欲や、選挙や、夢や、差別や、他人への嫌悪感や、人への無関心や、そんな物が一つの歌で綺麗に流し尽くされたような感じ。
なんかいろんなモヤモヤが吹っ飛ばされて正当化されたような肯定感のあるラストでした。
しかし、ラストで上手くやられた感はあるものの、この映画好きか?と言われれば、本当に評価に迷います。
群像劇は『マグノリア』や『レザボア・ドッグス』なんかも大好きなので作りとして面白さも感じますし、特にこの映画の構成的な部分は感心する程。
こんな大人数(24人の主要人物)の話に付いて行けるのか?と思っても、人の名前は迷う事があるものの、キャラは際立っているからか意外に迷わず観ていました。
そもそも細かい部分は見落としてもストーリーにあまり大差はないというか、ストーリーもあやふやというか、とは言えキャラ設定が際立って上手いんでしょうね。
あとは、カントリーミュージックを中心に普通に一曲どころか続けて二曲くらいを丸々歌うというシーンも多かったですが、意外にこれも飽きずに見ていました。
ただ、やっぱり気になるのは皮肉と侮蔑に満ちた表現的な部分です。
それを楽しめるか?というと、どうしても不快に感じる部分をぬぐえなかったというのが正直な感想です。
映画後に仕入れた知識ではありますが、ナッシュビルというのはカントリーミュージックの中心地で、その背景故に人々の中に音楽が浸透してミュージシャンの地位も高いんだとか。
特に政治的にも保守的な土地という事もあって、ミュージシャンを政治利用することの威力は絶大なんでしょう。
映画の冒頭から大統領候補選挙の宣伝カーが繰り返し出てくる通り、政治利用ありきでミュージシャンを利用しているという事がこの映画でも描かれます。
ヘブンにしても、かたくなに政治への関与を拒みながら州知事をほのめかされてあっさりと傾いたり、前出の選挙資金集めでのストリップなんて政治が下衆になり下がった最たる例ですし。
時代も、銃社会、黒人差別、ベトナム戦争への国民の不満と、帰還兵のPTSD、ヒッピー文化、ドラッグ、冷戦・・・と、政治への不信感も強く、若者の退廃感も蔓延していた時代。
若い世代は政治なんて心底、無関心で、むしろ若者の荒廃ぶりとばかりにやりたい放題。
そして、ラストの引き金となる発砲は、一番、無関係と思われた普通の若者によって行われる事実。
なんだか、この政治に無関心な若者達と、政治にお金や権力の匂いしか感じさせない大人達が全く機能していない社会を描いている事も当時のアメリカ社会に向けた風刺なのかな?と感じたり。
その辺りをもう少し意識して映画を観直すと、皮肉や侮蔑も冷静に受け止められるのかな?と思ったり、いずれもう一度見直してから再評価したいと感じた映画でした。
4.評価
個人的な好き度合い:☆☆☆ (0/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。
皮肉と侮蔑に満ちた表現がなんとも毒々しくて、すっきりと面白いとは云い辛い作品でした。
時代背景や土地柄等の理解がなく、ブラックな笑いを思いっきり悪意で受け取ってしまったような。
とは言え、群集劇らしくラストに向けての目を見張る様な展開は素晴らしかったです。
世間の評価は以下のような感じです。
Filmarks:3.6
映画.com:3.1
amazon :4.2
面白いという方の意見:
・24人を一つのカメラの中に収め、ストーリーを展開する卓抜した手際の良さ。
・ショービジネスを政治利用する意図がすんなり伝わる。
・ラストシーンの心地良さに驚く。
・アルトマンらしい反体制としてのスタンスが冴えている。
・ドキュメンタリー的な映画手法に見応えがある。
・群像劇映画のお手本。
・時代感の投影が素晴らしい。衰える国を無視して「It Don’t worry me」と歌う他人事感が秀逸。
・その土地の文化であるカントリーミュージックが政治利用されていく不幸。
面白くないという方の意見:
・40年前のアメリカを舞台にした映画で、その時代背景等を読み取るにはかなりの読解力が必要。
・この監督の笑いのツボが理解出来ない。
・カントリーソングが長すぎる。
・ストリップシーンが最高に不愉快。
・いまいち理解でき感じがしない消化不良の映画。
・長すぎる。
世間の評価を見ての印象:
時代背景、土地の歴史への理解って、この映画に関しては最低限、必要だったのかな?とも思いながら。
例えば、今の日本を舞台に、政治家を詰り、どこかの選挙区でその土地のスターたちを巻き込み、総勢24人の群集劇なんてやったらそれなりに面白いはずなんですよね。
なんというか、皮肉を侮蔑としか感じられない時点で、遠い星の話をされている気分だったのは事実で、多くの方もそういった置いてけぼり感を感じていたように思います。
群集劇と言えば、ラストは全員を巻き込んでのどんでん返しなので、いったいどんなのが来るんだろう?と思ったら、凄い地味に合唱。
だけどなんか染みる。
散々、不満を語りながらもこのラストに違和感を感じずに落ち着かせてしまう所が、もう一回見るかな?と思わせてしまう所で、それが良いことなのか、悪いことなのか。
amazon prime videoで観る。
5.お勧めしたい人
こんな方にはお勧めの映画かも知れません。
・社会問題に切り込んだ映画を観たい人。
・音楽が最高の映画。
・映像がスタイリッシュな映画。
・ファッションを楽しめる映画。
・ブラックな笑いが好きな人。
・ラストが衝撃的な映画。
・胸糞キャラを観るのが好きな方。
・複数の主人公の視点で進む群像劇の映画が好きな人。
amazonでBlu-ray・DVD・原作を購入する。
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