映画感想『雨月物語』

巨匠を観る』企画、11作目(全27作)の映画です。

1.映画情報

作品名:雨月物語
ジャンル:時代劇 ドラマ
鑑賞履歴:2021/8/19(amazon prime)
公式サイト:
wikipedia:wiki
監督:溝口健二
制作年:1953年
制作国:日本
上映時間:96分
配給:大映
メインキャスト:京マチ子 森雅之 水戸光子 田中絹代
スタッフ:撮影(宮川一夫)
原作:『雨月物語』上田秋成
受賞歴:第14回ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞、イタリア批評家賞
予告動画:

『雨月物語』(Ugetsu)/1953/予告編

2.あらすじ

室町時代末期、陶工の源十郎は戦乱の中で賑わう街で陶器を高く売る事を考える。
村に武士が略奪に来る中、妻と息子を残し、危険を冒しながら街に出ると陶器は十分な儲けとなった。
そんな中、纏め買いをした若い姫の家を訪れるが、姫に誘惑され、惚れ込んでしまい。。。

3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

個人的な感想として、映画への価値観がひっくり返る程、かなり強い衝撃を受けた作品でした。
どす黒い程に人間の欲望が際立ったリアリズム。
とにかく映画の至る所で、人間の衝動的で原始的な欲求がビンビンに際立ち、おぞましい感情にひたすら緊迫感を持って引き込まれました。
陶工として名を上げお金を得たい源十郎の、焦りに近い焼きあがった陶器への執念は凄まじく、兵が荒らす家に陶器を取りに行く姿には、思わず「やめろ!やめろ!」と声を上げたくなる程。
侍になりたい藤兵衛が街で追いすがる妻を振り切ってまで具足と槍を買う姿や、捨てられた妻が強姦される姿も、およそ人として理解できる悪意の範疇を越えた恐怖感を感じます。
何より、日本人がこういった倫理観の崩れた描かれ方をする事への軽いショックすら感じていました。
勿論、戦乱の中、特に室町時代末期が日本人としても倫理観が最も崩れ、貧しい時代であったことを思えば、この怖さこそがリアリティとして人の業の深さを浮き立たせててはいるのでしょうけれど。
とは言え、この時代の悪意に満ちた描写は数多くの映画で描かれているはずなんですが、ここまで怖さを感じる程の映画があっただろうか?と思うと、やっぱり群を抜いてこの映画は怖いです。
人物造形として、人間達から欲以外の物を削ぎ落して、餓鬼のように飢えた欲望のままで描き抜いている事が秀逸なんだろうと思いながら。

人間の怖さは勿論の事、雨月物語を扱っているので霊的な物も描かれます。
生前の世への情念の強さから死んでも霊となり、源十郎をたぶらかし、夫婦として添い遂げようとする若狭。
現代人には伝わりにくいはずの容姿の不気味さにも拘らず、京マチ子本来の整った顔立ちで美しく見える怖さ。
そこには人の世の俗物的な生臭い怖さとは違う超然とした怖さはあるのですが、正直な所、これなら人間達の方が恐ろしいよな。と感じたりも。
なんというか霊という存在ですら、人間の容赦のないリアリズムの前では霞んでしまうような、それは意図した部分なのか、自分の受け取り方の問題なのか判りませんが、そういった部分にもこの映画の恐怖の完成度の高さを感じてしまいます。

ただ、そうした怖さの一方で妻の宮木と源十郎がお互いを思う気持ちや、子に対する情愛の深さは美しく描かれています。
お金への欲に支配されていく源十郎を憂い、小さな幸せを望む宮木、彼女が飢えた兵に殺されるシーンは思わず声が漏れました。
そして、霊となって夫を迎える宮木。
最後の最後に、日本人として一番落ち着く家族の姿が描かれるのに、妻は死んでいるという事実。
それを知る源十郎の絶望には泣かずにいられませんでした。

それにしても、そもそもこの映画を観たのは、長回しが苦手な僕が色々観てみようと思う中で選んだんですが、ここまでの完成度の高さを見せられると、技法がどうこうというのは全く意識せず観てしまいますね。
改めて言われてみればワンカットだったと思うシーンも多いんですが、意外にワンカットの中でも動きがあるのであまり冗長的な感じはなく、むしろテンポよく感じるくらい。
テンポが良いと言うか、画面の前面と後面で同時に人の動きがあって、それを一つのカメラに収めているので連続性が高まっているというか。
ただ、こういう部分もカメラの動きから役者の動きまで、細緻に至るまで計算し尽くして撮っているんだろうと思うと、映画の完成度って絵コンテの段階でかなり決まるんでしょうね。
それを再現出来る監督と、役者と、カメラの腕って大切なんだな。と改めて感じました。

特に印象に残ったシーンが、宮木が殺されるシーンのワンカットなんですが、前面で刺された宮木がもがき苦しむ中、かなり後方の後面で刺した男が別な男と奪った食べ物を取り合う姿が描かれるっていう、これはシーンとしての強烈さと、画としての凄みで一生忘れないだろうな。と思いながら。
最後に家に帰ってきた源十郎ががらんとした家に絶望した後、家をぐるっと一周した後、最初と同じ場所に宮木がいるっていうのも印象的なシーンですね。
カメラは途切れてないのにどうやって撮っているんだろう?と思いながら、こういうのも撮りたい画と撮れた画の差異がない力量っていうのは、当時の日本映画の実力なんだろうと思うと、改めて溝口健二を始め、当時の日本映画って凄いレベルだったんだな。と感心してしまいますね。

4.評価

個人的な好き度合い: (3/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

個人的に映画への価値観がひっくり返るくらいの素晴らしい作品でした。

単純化した人物造形が作り出す暴力的で退廃的な人間の世界と、生前の世への恨みから霊となった姫の幽玄な世界が恐ろしいです。
そして、そんな世界の中でも失われない妻の愛情が泣けます。

世間の評価は以下のような感じです。

Filmarks4.0
映画.com4.0
amazon4.2

面白いという方の意見:

・献身的に夫に尽くし、霊になっても待ち続ける妻の姿が美しい。
・幽玄と退廃の世界観。
・欲に走って男と犠牲になる女。
・地獄絵図のような世界観に引き込まれる。
・京マチ子の妖艶な美、着物の裾まで隙のない美しさ。
・戦国時代を舞台にはしているが、戦後数年での作品でもあり、反戦の意図を感じる。
・絵巻物のような流麗な長回しに引き込まれる。
・「映画の鬼」と呼ばれた溝口監督らしい、妥協のない完成度。
・撮影、宮川一夫の映像の美しさ。

面白くないという方の意見:

・欲に走って後悔する人々を見ると少し説教臭く感じる。
・世界中で評価されるほどの面白さは感じない。
・原作の「雨月物語」だけでなく、様々な物語を引用しており、原作ファンとして不服。
・眠たくなった。

世間の評価を見ての印象:

個人的に若狭に恐怖感を感じなかったので、その怖さを指摘している方の多さにはう~ん、と少し自分の理解不足も悩みながら。

意外に多かった意見が説教臭い、教訓めいている、という意見。
ストーリーを大雑把に解釈すれば、人の道理を外れて不幸が連鎖していくというシンプルな話なのでそういう印象も持たれがちなんでしょうね。
あとは、ラストの唐突な宮木の霊としての語りとか、その辺りが与える印象かな?とも。

映像面の評価、世界的な評価への言及は多いです。
個人的にもそう評価されていることに嬉しさも感じる映画でした。

amazon prime videoで観る。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・人の狂気が感じられる映画を観たい人。
・緊迫感のある怖さを描いた映画が好きな人。
・夫婦のつながりを感じたい人。
・映像美を感じられる映画。
・芸術寄りの映画。
・長回しの撮影が特徴的な映画。
・女優の美しさに見惚れる映画。
・世界観が独特な映画。
・ラストシーンが泣ける映画。
・戦争で引き裂かれる男女の話を観たい人。
・胸糞キャラを観るのが好きな方。
・モラルの崩れた世界を扱った映画。

amazonでBlu-ray・DVD・原作を購入する。

6.映画関連記事 紹介

映画感想に関して、『はじめに』

好きな映画50選

トップページ

ブログランキングに参加しておりますので、よろしければバナークリックで応援をお願いします。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

コメント

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします。
タイトルとURLをコピーしました