映画感想『無防備都市』

巨匠を観る』企画、15作目(全27作)の映画です。

1.映画情報

作品名:無防備都市(ROMA, CITTA, APERTA)
ジャンル:戦争 ドラマ
鑑賞履歴:2021/9/2(Amazon Prime)
公式サイト:
wikipedia:wiki
監督:ロベルト・ロッセリーニ
制作年:1945年
制作国:イタリア
上映時間:100分
配給:ミネルヴァ・フィルム SpA(イタリア) イタリフィルム / 松竹洋画部(日本)
メインキャスト:アルド・ファブリーツィ アンナ・マニャーニ マルチェロ・パリエーロ フランチェスコ・グランジャッケ
スタッフ:脚本(セルジオ・アミデイ フェデリコ・フェリーニ チェレステ・ナガルヴィッレ ロベルト・ロッセリーニ)
原作:
受賞歴:第1回カンヌ国際映画祭 パルム・ドール(最高賞)
予告動画:

2.あらすじ

イタリア敗戦後、ナチス・ドイツに占領されたローマの市民やレジスタンスの人々の物語。

レジスタンス活動に身を投じた誇り高い男達や、それに協力する神父や女性達。
敗戦の中から新しい国を作った市井の人々の、厳しく苦しい日々を描いた作品です。

3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

残忍なナチスに支配されるローマの街で、市民やレジスタンス達が戦った姿が描かれています。
誰もがナチスに反発を覚えながら日々の困窮する生活に追われる中で、戦わない市民達もレジスタンスの集団を陰ながら支援する姿に、被統治民としての一体感を感じます。
きっとレジスタンスは彼ら市民にとっての誇りであり、象徴だったんでしょうね。
それに対してのナチスの暴虐ぶりは徹底した悪役キャラです。
そもそもイタリア民族なんて早々に無条件降伏を受け入れる根性なしの嘘つきみたいな扱いでして、上級民族を自認するナチス将校達がイタリア人をなぶる、いたぶる。
これで勧善懲悪になればヒロイックなエンターテイメントなんですが、その弾圧の中でイタリア人としての誇りを保ちながら、心が折れることなく死んでいく。
なんだか武士の死に様みたいな話ですね。

とは言え、ネオレアリズモの先駆けとなるこの映画なんですが、戦争映画という程の派手さはなく、強いて言えば戦時中映画という日常の中の悲劇が描かれる映画。
言い方は悪いですが物凄く地味です。
これは今の時代の刺激的な映像に慣れ過ぎてしまった自分にも問題があるのかもしれませんが、拷問や殺害の描写は、むしろ驚くほど抑制された表現。
なのに記憶にこびりつくような後味の悪さを残す不思議。
ナチスに連行されるフランチェスコを追いかける婚約者のピーナが撃ち殺されるシーン。
マンフレーディが拷問され、息絶えるシーン。
ペレグリニ神父を銃殺できないイタリア人兵士と、代わりに撃ち殺すドイツ人将校、そしてそれを見つめる子供達。
現代であれば、もっと残酷にもっと刺激的な映像でこれらは撮影され公開されるシーンだと思いますが、この時代故の表現の抑制ぶり。
ただしっかりとその情感が伝わってくるのは、愛情や誇り、尊さ、哀れみといった普遍的な人の思いがそこに込められているからなんでしょうね。
上に挙げた以外にも記憶に残るシーンは沢山出てくる映画でしたが、ピーナが死ぬシーンは飛び抜けて印象に残るシーンでした。
この辺りは、貧しい庶民の妻が、夫を残忍な悪党に連れ去られて、追いすがるも無残に撃ち殺されてしまう。っていう、もう、無慈悲の極みみたいなやりきれないシーン。
映画史としても有名なシーンらしいので、確かにその評価に値する衝撃と記憶に残るシーンだったと思います。
ただ、なんというか物凄く演歌的な表現。と思って観ていて、ラストのペレグリニ神父に対して銃を向けたイタリア兵士全員が地面に向けて発砲して殺せないっていうのも印象的で、それを眺める子供達も含めて演歌みたいな雰囲気なんですよね。
改めて、観れば観る程、この映画の中に漂う武士の死に様のような誇り高さと、演歌的な情の深さが日本的な印象があって、そもそもネオレアリズモって、市民の厳しい現実を描く。 イコール 日本人の美的精神に近付く。みたいな所があるのかな?と思いながら。
そうすると、同じ敗戦国のイタリアと日本で作られたこの時期の映画が世界中で受け入れられたっていうのも、描かれた内容の類似性もあっての事なのかな?とも思いながら。

もう一点、この映画でフェリーニが脚本家としてデビューしています。
ロッセリーニの映画をこれしか観ていないので、この映画の日本的な情感というのがフェリーニの影響なのか?というのは何とも言えないのですが、フェリーニの初期の精神にはかなり日本的な情緒感が感じられると思っていて、
『道』で言えば、
「あんた、これ以上、悪いことは止めとくれ」と哀願するジェルソミーナを、
「うるせぇ、俺が悪いんじゃねぇ、俺をこんな風にした世の中が悪いんだ!」と突っ走ってしまうザンパノがいて、
その結果、
「あんた。。。」とジェルソミーナがボロボロになって、
それに居た堪れなくなってしまったザンパノが、
「もう俺の事はほっといてくれ。俺に構うな!」とジェルソミーナから逃げ出したものの、数年後にジェルソミーナが寂しく死んだことを知り、
「あぁ、俺のクソがぁ、クソがぁ。。。」と慟哭するっていう。
これはもう、先日観た『雨月物語』と変わらない情感ですし、手塚治虫の『火の鳥』で鳳凰編やら乱世編の世界観と同じなような。
やや無理矢理感のある話をしているとは思いつつも、フェリーニの描く話は日本人には美徳感として備わっている部分なのかな?とも思いながら。
そうすると『無防備都市』の情感の豊かさも、やっぱりその辺りの精神が込められているのかもしれないと思ったり。

※※※ 以下は、この映画の時代背景やネオレアリズモに関して纏めたものです! 興味のある方は読んで頂けると嬉しいです。 ※※※

第2次世界大戦で日独伊が三国同盟を結び戦っていましたが、日独は1945年に降伏、イタリアは早い段階、1943年の段階で連合国からの無条件降伏を受け入れて、同盟を結んでいたファシスト党は解体、党首のムッソリーニは幽閉されています。
ドイツ・ナチスはその流れを事前に察知し、イタリアが連合国としてドイツに宣戦布告する前にイタリアの都市を制圧。
舞台となるローマは無防備都市宣言を行い、武力解除を行うことでナチスからの武力干渉を避けようとしますが、その約束は守られず。
と、そんな時代背景を元に描かれた映画です。

因みに無防備都市宣言とは、戦争国際法であるハーグ陸戦条約で謳われていて、まずは宣言側が一切の武力を放棄する事、それに対して受け付けた側が武力による統治を行えない事。が宣言の目的になります。
とは言え、あくまで双方間の紳士協定のような物が前提なので、ローマでは宣言はしたものの、ナチスからは無視され(実際にはローマ側に戦力もあったようで)、市民はナチスからの実効支配により多くの不幸がそこにはあったようです。

この映画は1945年9月にイタリアで公開されていますが、ローマは1944年に連合軍によって解放されており、その後に撮影し、ドイツ降伏の4カ月後に封切られています。
戦争終結後、間もない段階でナチスの非道ぶりを世に知らしめ、イタリア人の誇りを回復したという功績は大きいですが、それ以上に、ナチス支配下のローマでそこに暮らす庶民を題材に、その現実の姿を描いた事への評価が高く、この作品はイタリアのネオレアリズモ(新現実主義)という芸術ムーブメントの走りとして評価されています。
それまで映画と言えば大掛かりなセットや、壮大なストーリーありきで特定の人物が主人公だったのに対して、街中で撮影し、庶民を描き、キャスティングも一般人を使用(この映画は違いますが)する映画作りというのは衝撃的な出来事だったようです。
内容的にも庶民の苦しみや悲哀を描いている部分が現実主義と言われる所で、それまで映画として一般的だった派手な娯楽を中心にしたエンターテイメントから、新しい方向性を見出した映画になります。
同時代のネオレアリズモを代表する監督や作品としては、ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』、ルキノ・ヴィスコンティの『揺れる大地』等。
ネオレアリズモ自体は意外に短命ですが、後々、このムーブメントの影響を受けて、フランスのヌーベルバーグや、アメリカのフィルムノワール、アメリカンニューシネマなど、様々なムーブメントがその作風を継承していきます。

ただ、この辺りのネオレアリズモがイタリアから生まれたというのは、戦争に負けたからという事と切り離せない話のように思っています。
というのも、戦時中のイタリアの国家や政府、軍部が非難されるのは当然だとしても、そこで暮らす人々はレジスタンス活動で自分達の自由を求めて戦っていたわけですし、新しい時代の担い手として国を作り直していくイタリアの人々は、そういった市井の中に居る人々の現実や叶わない願いを描くことが当然の流れだったのではないかな?と。
戦勝国は彼らがいかに勇敢に戦って勝利を勝ち取ったか?という話を描ければいいのですが、敗戦国はそういう訳にはいかないですし。
同じく敗戦国の日本に関しては、レジスタンス的な物はなかったとは言え、この後暫くしてから、黒澤明、小津安二郎、溝口健二等、日本映画は隆盛を極める黄金時代に入っていきます。
大雑把な言い方にはなりますが、戦後の日本映画に描かれるのは、戦時中のように争い、打ち勝っていく映画ではなく、弱きを守り、日本人らしく美しく誇り高く信念を持った生き方をしようと、庶民を中心に道徳観的な尊さのある映画が多いように思います。
それはイタリアと同じく、全てを失ってからの勝利至上主義を排除した新たな価値観で描かれた映画が、世界中の人々にとって新鮮で、刺激的だったんじゃないかと思っています。

4.評価

個人的な好き度合い: (0/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

厳しく生きる人々の現実に焦点をあてて映画を作ったイタリア・ネオレアリズモの先駆けとなる作品。
この映画の前と後で映画の歴史が変わったとも言われる作品です。

抑制された表現にも拘らず、後味の悪さが記憶にこびりつくようなシーンが印象的な映画でした。

世間の評価は以下のような感じです。

Filmarks3.9
映画.com3.8
amazon3.3

面白いという方の意見:

・ドイツ占領下のイタリアで生活する人々の生々しい現実が描かれている。
・人間の感情の変化をしっかりと追及した作品。
・誇りをもって生きた人々の思いが、ラストで子供達に受け継がれるのが涙を誘う。
・拷問のシーンはリアルな怖さを感じる。
・この映画の前と後で映画の歴史が変わった映画史に残る一本。
・ピナが射殺されるシーンは映画史に残る名シーン。
・ネオレアリズモの先駆けとなる映画で古典的な価値がある。
・三国同盟の中でイタリアがドイツと戦う経緯等が分かる。歴史を知る意味でも面白い。
・イングリッド・バーグマンがロッセリーニにと結婚するきっかけになった作品。

面白くないという方の意見:

・評判ほど、面白い作品とは思えなかった。
・現代の感覚で見ると平凡な印象を受ける。当時の価値観では違ったんだろう。

世間の評価を見ての印象:

正直、そこまでの歴史的な意味まで感じ取れなかった身としては、それなりに楽しめるモノクロの名作。という感じなんですが、なんというか刺激がやっぱり足りなかったんだろうな。
そこまで刺激を求めて映画を観る方ではないものの、単発的なシーンの素晴らしさと印象深さとは逆に、それ以外のシーンに関してはそこまで魅力を感じて入れなかったのが本音で。
個人的にも少し物足りなさを感じてしまった気がします。

歴史背景としてイタリアがそれまでの同盟国、ドイツに占領されたという事に驚いた部分はあったのですが、そう言えば『ライフ・イズ・ビューティフル』もそんな話だったな。と思いながら。

amazon prime videoで観る。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・人の狂気が感じられる映画を観たい人。
・夫婦のつながりを感じたい人。
・脚本の素晴らしさを感じられる映画。
・ラストが衝撃的な映画。
・戦争で引き裂かれる男女の話を観たい人。
・胸糞キャラを観るのが好きな方。
・メンタルの強い男性が好きな人。
・戦争映画や戦時中の話が好きな人。
・ナチスを扱った映画。
・複数の主人公の視点で進む群像劇の映画が好きな人。

amazonでBlu-ray・DVD・原作を購入する。

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