映画感想『空白』

1.映画情報

作品名:空白
ジャンル:サスペンス ドラマ 家族
鑑賞履歴:2021/10/5(映画館:ミッテテン)
公式サイト:製作委員会 公式
wikipedia:wiki
監督:𠮷田恵輔
制作年:2021年
制作国:日本
上映時間:107分
配給:スターサンズ KADOKAWA
メインキャスト:古田新太 松坂桃李 田畑智子 藤原季節 趣里 伊東蒼 片岡礼子 寺島しのぶ
スタッフ:脚本(𠮷田恵輔)、音楽(世武裕子)
原作:
受賞歴:第68回アカデミー賞 脚本賞 助演男優賞(ケヴィン・スペイシー)
予告動画:

映画『空白』予告編/古田新太の狂気が、登場人物全員を追い詰める!

2.評価(個人)

個人的な好き度合い  (0/3)
※ ★☆☆~★★★が凄く面白いで、普通に面白い以下は全て☆☆☆です。

考えさせられる部分は十分にある映画でした。

人と人との距離感とそれを埋める愛情、信頼、妥協といった物の意味を考える作品でした。

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3.感想

※※※ 以下、ネタバレありです! ※※※

正直な所、序盤から過剰な程に神経を逆なでする表現に少し嫌な気持ちになりながら観ていました。
父親としても人としても失格としか言えない添田が暴走して、執拗に自分の感情だけで周りを振り回す姿にうんざりし、
振り回された教師達の保身に走る対応にも、マスコミの過剰なまでのご都合主義な対応にも、スーパーの店員 草加部の自分に酔った傍迷惑な正義感にも。
そして店長の青柳の本心の見えない態度にも。
そもそも本当に万引きしたのか?事務所で何があったのか?過去の痴漢は本当にあったのか?
彼が何かを隠しているのかも判らず、本心はとんでもない悪なのか?も判らず。

こういうのが積み重なって、なんでここまで残酷ショーみたいな映画を観ないといけないんだろう?と。
それでも序盤で考えていたのは、確かに世の中ってロクでもない人間も多いんだよな。と思いながら。
添田のような漁師の中だけの常識でのし上がって生きてきた人間、人目を憚らず自分の思いだけで喚き散らし他人を攻撃する人間が世の中には確かにいる。
草加部のように自身の正義感を曲げられず、他人にそれを強要して酔いしれるような人間もいる。
青柳のように本心が判らず、それを表に出さずに人当たり良くしながら裏で悪い事を考えているかもしれない人間もいる。
きっとこの映画は、そんな変人達が他人にエゴをぶつけて、周りを振り回し、振り回され、ボロボロになっていく映画か?と思いながら。

この辺りは前半の教師やマスコミのクズっぷりも併せてそういった方向で進みますが、娘が自殺した母親が添田に伝える、弱さに逃げて自殺した娘を責めながら許して欲しいという言葉。
この言葉からやっぱり映画の流れが変わったんだな。と思いながら。
多分、添田にとって娘をはねた女性に対しては本当に無関心、そもそも青柳が追いかけ回さなければそんな事故は起きていない。というだけの認識でしかなかったと思いますし、何度謝られても興味もなかったような。
けれど自殺した娘の母親に謝罪されて、初めて自分が無視を続けた事がどれだけ残酷で、自殺した娘がどれほど苦しめられていたか?を理解したような。
添田にとってはこれがきっかけだったんでしょうね。
自分の感情だけを正当化して生きる事が人に与える冷酷さと、詫びる人間を突き放すことが相手を地獄に突き落とすような絶望を与えるという事を始めて理解できたきっかけのような。
そして、そこまでの懺悔を伴う謝罪であれば、受けた側がその問題を終わらせない限り、延々と謝罪と復讐を続ける羽目になるという事。
自分の非や弱さを認め謝るという事と、他人を理解して寄り添うという事が人間的に欠落していた添田にとって、力で屈服させる以外の謝罪という物に触れたのも初めてだったのではないか?と思いながら。

でも人って解ったからってすぐには変われないんですよね。
だからこそ、添田がタクシーの中でつぶやく「みんな、どうやって折り合いつけるのかな?」というセリフを聞いて、すとんと、これが描きたかった映画だったんだな。と思いながら。
添田にとって、人を許す、受け入れる、理解するというのは、その必要性を判ったとはいえ、どうするべきかも判らずそこでもがき苦しむ。
思いつく範囲で、妻の現在の夫を詰ったことを謝罪したり、かつての弟子を再度受け入れたり、娘の好きだった物に触れたりしながら。
それでもはっきりとはせず、人との接し方を、折り合い。と、妥協のようなぼんやりとした言葉で表現してしまうような。
でも、教えてくれる人がいない中で、自分と格闘しながら人との共存を進めようとする添田にとっては、この言葉は紛れもない本音だよな。と思いながら。
そして、自分の間違いを知り、それを悔い正そうと苦しみながら生まれ変わっていく添田の姿を描くことがこの映画のテーマだったんだろう。と、そう思っています。
だからこそ、添田と青柳が再開し、青柳を初めて許す姿には、グッとくるものがありました。

空白って何でしょう?
ストーリー上の隠された部分、特に青柳に絡む、本当に万引きしたのか?事務所で何があったのか?過去の痴漢は本当にあったのか?という謎掛け的な物のような気もしますが。。。
個人的には人と人の間にある距離。
それを空白のままとするのか、折り合いや愛情、信頼といった物でその空白を埋めるのか?という意味のような気もしています。

4.評価

世間の評価は以下のような感じです。

Filmarks:4.1
映画.com:4.1

面白いという方の意見:

・全員が被害者で全員が加害者、救いのない話の中で最後に少しだけ希望が見えるのが泣ける。
・観ている人の心の中にある醜い部分をこの映画の誰かに重ねて見せてしまう部分がある。
・自殺した娘を詫びる母親(片岡礼子)の毅然とした姿に胸を打たれた。
・事故シーンのインパクトが強烈で記憶に残る。
・マスコミ、教師達への嫌悪が際立つ。
・父親を責めながら娘を引き取らなかった母親に対しても憤りを感じる。
・ラストシーンが衝撃的で泣けた。
・古田新太、松坂桃李を始め、役者陣の演技力が凄い。
・寺島しのぶの手の付けられない怖さがとんでもない。
・ワンシーンしか出てこない人々の印象が残る映画。

面白くないという方の意見:

・父親 添田が人間としてクズ過ぎて観てられない。後悔しても同情の余地もない。
・ラストの絵画のシーンがベタすぎる。
・娘と仲良く付き合いながらも最後まで救わなかった母親も頭にくる。

世間の評価を見ての印象:

観ている人に序盤で散々嫌われる父親 添田、この人の後半をどう受け止めるか?も好き嫌いが別れるポイントの一つなんでしょうね。
僕自身は変わったことを肯定的に受け止めつつも、この映画を手放しで褒められる程、納得したか?と言うと、全く。と言うのが本音です。

やっぱりこう、折り合いという事で苦労しつつ変わろうとする姿を見ても、前半の印象が強烈過ぎるだけに信用しきらないんですよね。
ただ、その辺りの変化を丁寧に描いていたら、と思うものの、この映画って心理や事実をはぐらかしている事で成り立っている映画で、そこを丁寧にしたら面白みも消えてしまうんでしょうね。
そうするとやっぱり極端すぎる人間の変化に違和感というか、一直線過ぎるというか、う~ん、と乗り切れなかったんですよね。

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劇場公開中の為、配信なし。

5.お勧めしたい人

こんな方にはお勧めの映画かも知れません。

・人生に挫折してやり直したい人。
・殺したいほど憎らしい人がいる人。
・卑屈な自分が嫌いな人。
・過去を悔やんでその思いから抜け出せない人。
・社会問題に切り込んだ映画を観たい人。
・人の狂気が感じられる映画を観たい人。
・緊迫感のある怖さを描いた映画が好きな人。
・常識や道徳観が崩れていく映画が好きな人。
・人が後悔し生まれ変わっていく映画を観たい人。
・家族を亡くした苦しみを描いた映画を観たい人。
・役者の演技力を感じたい人。
・最後まで解決できない謎が残る映画。
・ラストシーンが泣ける映画。
・救いようのないクズが主人公の映画。
・胸糞キャラを観るのが好きな人。

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劇場公開中の為、販売なし。

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